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亡くなった母の税金を自分が何で納めないといけないの?(6)

修験僧のような顔をした山原仙人氏の痩せた顔がますます痩せ、顔も青ざめて古武良税理
士の事務所へやって来た。
もともと仙人氏は小さなアパートを所有しており、その確定申告を毎年、古武良税理士が申告
代理していた。
| 仙人氏 |
「先生、亡くなった母親名義の税金が、突然私と弟や妹にきていますが何が何やら判
らなくて、何とかできませんか?」 |
古武良氏も仙人氏の母親が亡くなったことは知っていたが、母親の税金については初耳であった。 仙人氏から詳細に話を聞いてみると、こういう事だった。
仙人氏には、弟が2名妹が1名いるが、次男の道楽氏が事業(レストラン経営)をしており、母親が
亡くなる6ケ月前に事業の運転資金として街金から母親の土地を担保にして、1,500万円借りたが
その後、道楽氏の事業が不振になり結局、母親が土地を処分し、その代金で1,500万円を弁済
したとの事である。 母親は、それから3ヶ月程して亡くなった。
当然、税務署から母親宛に譲渡所得税の申告案内が届いたので、次男が単独で確定申告をして
所得税のみで260万円の納付書をもらった。
仙人氏と三男や妹は、当然、次男の道楽氏が納付したと思っていたが、未納付のため相続人の
兄弟や妹に催促状が届いて大騒ぎとなり、古武良税理士のもとへ駆け込んできたのである。
| 古武良税理士 |
「事情は大体判りました。弟の道楽さん本人からも直接話を聞きたいので弟さんと一緒に来てください。」 |
それから2〜3日後に、仙人氏と弟の道楽氏が来所した。
弟の道楽氏は痩せている兄の仙人氏とは対照的にふっくらとして、なかなかハンサムでいかにも
女性にもてそうであった
| 古武良税理士 |
「道楽さん、どうしてお母さんの確定申告にあなた一人で税務署に行ったの
ですか?」 |
| 道楽氏 |
「先生、今回母が土地を売ったのは、すべて自分の借金を返済するためであ
り自分の不始末ですから、その税金も私一人で納めるつもりでしたが、私は
税金どころかまだ、サラ金等から借金が500万円ありますので、今、破産の
手続きをとっているところです。 |
| 古武良税理士 |
「う〜ん、道楽さんのお母さんが街金の連帯保証人兼担保提供したわけで
すね?」 |
| 道楽氏 |
「はい、あの時は、店舗改装のために別のサラ金から借金しており、そこは
ヤクザまがいの業者で毎日追い込まれていたので、別の金融業者に借換
えをするために、母親に無理にお願いして、担保を借りたわけです。
もちろんその時は、店の売上げから毎月返済する予定でした。」 |
| 古武良税理士 |
「では道楽さん、どうして母親の土地を売ることになったのですか?」 |
| 道楽氏 |
「前のヤクザまがいの業者が毎日店に来て、大声で返済をせまられていたので
お客さんが恐がって客足がバッタリ減り、売上げも減る一方で結局返済が出来
なくて、母親の土地を処分してそのお金で一括返済しました。」 |
この弟の話を隣の兄の仙人氏は、苦々しく聞いていた。
弟の不始末で母親の唯一の財産を失っただけでなく、兄弟皆が税金を納めなければならない
ので、仙人氏としては腹立たしかったのだろう。
| 古武良税理士 |
「わかりました。道楽さんは母親の土地売却代金は全額返済し、個人的
に使ってはいないですね?」 |
| 道楽氏 |
「はい、もちろんです。土地代金を受取る日には金融業者が同席して、そのお金
は全部持って行かれましたから」 |
| 古武良税理士 |
「それでは金融業者から借りた時の借用書や弁済証書、その当時の借金の
一覧表を次回持参してください。取りあえず、更正請求をしてみますから。」 |
”更正の請求”とは、確定申告書を提出したが、それが税法に従っていなかったり、又はその計算に
誤りがあった事により、当初の税金が過大である場合などで、法定申告期限から1年以内に提出で
きるのである。
それから一週間後、道楽氏が必要書類を持参してきたので、早速、更正請求書を提出し、同時に徴
収部門にも行き、山原氏は更正請求をしているので、差押え等は更正請求が決着するまで、一時
停止してもらいたい旨も伝えた。
更正の請求提出後1ヵ月程して、税務署の正直一本調査官からこの件で調査したいので、山原氏
の住宅へ伺いたい旨の電話が古武良税理士はあった。 調査当日の朝、10時に正直調査官が山原仙人氏の住宅に来訪した。
| 正直調査官 |
「山原さん、亡き母親の譲渡所得税の申告書が、山原道楽氏により提出されており、
既に税額は確定しています。その税金がまだ納付されていませんので、徴収部から
各相続人に催促状が届いていると思います。もともとこういう保証債務の履行による
譲渡所得の特例等は、本人からの確定申告により適用されるものであります。
今回はその申告がなかったので、通常の税額となったものであります。しかし、1カ月
前に更正の請求が古武良税理士により提出されましたので、今日はその確認で伺い
ました。
現時点では、滞納となっているので、是否を確定させるために早めに調査に伺いま
した。」 |
正直調査官はその後、道楽氏が借金をした際の借用書や、その借金に至るまでの事業の状況、資
金状況また別口の借金明細や、母親に代位弁済したときの状況等、こと細かに道楽氏から聴取した。 一番肝心な点は、次の点であった。
| 正直調査官 |
「道楽さん、お母さんがあなたに土地を担保提供した時点では、あなたの店の経営は
うまくいっていましたか?」 |
| 道楽氏 |
「従業員の給料は何とか支払っていましたが、前に店舗改装のために別の日掛け金
融業者から借りた借金の支払いが滞り、その業者に毎日取立てに来られ、客足が
減ってまして、それでその日掛け業者に返済するために、母の土地を担保に別の街
金から借りたわけです。 |
| 正直調査官 |
そうなると借換えした時点では、店の経営はかなり悪くなっていたわけですか?」 |
| 正直調査官 |
「お母さんも店の経営がうまく行っていないことを知っていたわけですか?」 |
正直一本調査官は、その後母の土地を売却した際の代金の受取り状況や、借入弁済の領収書等を、 確認してから切り出した。
| 正直調査官 |
「道楽さん、あなたの場合は所得税法64条の適用は受けられないと思いますよ。
つまり税金の減額は出来ないということです。」 |
| 正直調査官 |
「あなたの場合は、母親が担保提供した時点で事業は既に不振に陥っていたのでこの
時点で母親は、あなたに土地代金を贈与したものとして保証債務は受けられません。」 |
”所得税法64条2項は、保証した段階で債務者から回収不能と思われる状況では、その特例は受け
られないのである。”
| 古武良税理士 |
「しかし正直調査官、母親が担保提供した時には、母親は道楽氏の事業がうまく
行っていないことを知って担保提供し、保証人になったか否かは今となっては母親が
亡くなっているので、決め付けられないと思いますよ。」 |
古武良税理士のこの話には、正直調査官も困った顔になった。 まさかユタを通して、母親から事情聴取するわけにもいかないし・・・
| 正直調査官 |
「それでは古武良先生、その件については後日話をしたいので、先生一人で税務署
に来署願えませんか?」 |
| 古武良税理士 |
「わかりました。では来週にも伺いますから。」 |
後日、税務署にて面会した正直一本調査官は切り出した。
| 正直調査官 |
「先生、上司と相談した結果、今回山原道楽氏の更正の請求を認めます。結局道楽
氏が母親をうまく言い含めて担保提供をさせたのか、あるいは母親が道楽氏を道楽
息子と思って助けたのか、今となっては確証がないですから・・・」 |
数日してから、仙人氏他弟妹に税額をゼロに更正する旨の通知書が届いた。 その後、仙人氏が前回来所した時とは違い晴ればれとした顔でやってきて、こう言いました。
| 仙人氏 |
「先生、今回は本当にありがとうございました。これからは、何でも先生に相談しますから」 |
古武良税理士の独り言 「不動産を売る前に、税理士に相談したらこういう事はなかったの
にね・・・」(^ム^)
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