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「頑固オヤジのおかげで・・・」(8)

美良山優気(チュラサンユウキ)氏は50年前から建設業を始め、終戦直後の建設ブームにものって
儲け、一代でかなりの財産を貯えた立身出世の人である。
この美良山氏は、名前を優気といい優しそうだけどかなり頑固で部下にも厳しく、70才まで社長をし
ていました。
しかし、やる気はあっても建築現場に行くには体力がもたなくて、最近会社を譲渡し隠居生活をして
いたが、1年前から体調を崩し入院生活を余儀なくされていた。
同じ頃、妻の春子も体調を崩し余命6ヶ月と診断され、夫婦同じ病院に入院していた。
ところが、男という者は妻が病気になるととたんに気が弱くなって、みるみる衰弱し風邪から肺炎にな
り、あっという間もなく亡くなった。
それから1ヶ月もしないうちに、妻春子も病状が悪化し亡くなってしまった。
この亡くなった順番が、後で大きな問題になったのである。
古武良税理士のもとに美良山氏の長男から相談があったのは、妻春子が亡くなって2ヶ月後であっ
た。
長男の堅太郎氏は、名前からすれば頑固で気難しそうだが気は優しく、あまり自己を主張できない
性格である。
堅太郎氏「古武良先生、御存知だと思いますが、私の父と母が相次いで亡くなりまして、父の財
産相続について登記や相続税申告等お願いしたいのですが・・・」
古武良税理士「わかりました。ところで相続財産の分割については、相続人の兄弟間である程度
の話し合いはしていますか?」
堅太郎氏「はい。ある程度まとまっていて、この案でいこうと思っていますよ」
堅太郎氏の話と評価証明書を見ると、堅太郎氏は長男でありながらも、分割財産は残りの兄弟の
方が多くなっていた。
古武良税理士「堅太郎さん、この案でよろしいのですか?」
堅太郎氏「正直に言うと、私はもっともらいたいのですが、弟が強く言ってくるので弟に多くあげま
すよ。しょうがないです。いいです・・・」
堅太郎氏は、あきらめたように力なく言った。
ところが、数日後に戸籍簿を見たら、兄弟間の相続分の多い少ないとの事がどうでもいいような、大
きな問題があるのがわかったのである。
堅太郎氏とその兄弟5名の母親の名前が、亡くなった母の名前と違っていたのである。
古武良税理士「ん・・・堅太郎さん、亡くなったお母さんは実の母親ではないみたいですね。亡くなった母親は後妻なのですか?」
堅太郎氏「はい。私達兄弟は全員父の先妻の子で、父は再婚したのですが・・・」
古武良税理士「えっまさか・・・非常に困った事ですね」
堅太郎氏「何か問題があるのですか?財産の分割は兄弟間でまとまっていますよ」
古武良税理士「いや堅太郎さん、そういう問題ではなくて、亡くなった母親の春子さんに兄弟がい
ますよね」
堅太郎氏「はい。義理の母親には兄弟が3名おりますが」
古武良税理士「堅太郎さん、悪くすると亡くなった父親の財産の半分は、春子さんの兄弟の方にい
くかもしれませんよ」
堅太郎氏「えっそんな!だって財産は全部父親名義ですよ」
古武良税理士「実は堅太郎さん、父親が亡くなって1ヶ月後に母親が亡くなっていますので、父親
の財産の内1/2は亡くなった春子さんの法定相続人に相続権がありますので、春子さんの兄弟が
法定相続権を主張したら、半分はなくなりますよ」
つまり、父親の死亡後1ヶ月後に母親が亡くなっているので、父親の財産の内1/2は一旦母親が相
続し、その後母親の相続分は母親の相続人が相続するのである。
しかし、今回は堅太郎氏含め他の兄弟が先妻の子であるので、亡くなった母親の春子さんの相続
分はないのである。
この場合、亡くなる順が逆で妻の春子さんが先に亡くなり、その後1日でも後に夫の優気氏が亡くな
っていれば、このような問題は起こらなかったであろう。
古武良税理士「堅太郎さん、いいですか。このままいくと父親の財産の半分は、あなた方からすれ
ば縁のない人にもっていかれますよ。遺産分割協議書はあなた方の案のとおり私が作成しますけど
母親の兄弟方の印鑑を何とか押させて下さい」
堅太郎氏「う〜ん。そういう事であればオヤジは遺言状を書いておけば良かったのに・・・何しろ頑固でしたから・・・」
古武良税理士「堅太郎さん、直接母方の兄弟にそういう話をもっていくのは難しいと思いますので、誰か間を取り持ってくれる人はいませんか?」
堅太郎氏「そうですねぇ、私も母方の兄弟とはあまり付き合っていませんから、私からは言いにく
いですね。親戚の人で話ができる人を捜しますから、少し時間を下さい」
その後、1ヶ月たってから古武良税理士へ堅太郎氏から、先方との間を取り持ってくれる人が見つか
ったとの連絡があった。
それから程なく、堅太郎氏兄弟の案のとおりで遺産分割協議書を作成し、無事に相続人全員の印
鑑がもらえて、期限内に相続税の申告を終えた。
勿論、母方の兄弟はタダで印鑑を押したのではなく、優気氏の遺産の内預金3,000万円を母の春子
さんが相続し、それを母方の兄弟3名に各1,000万円ずつあげて納得してもらったのである。
この件で言える事は、家庭が複雑な場合には、親は公正証書で遺言状を作成しておく事が大切で
ある。
この事案は古武良税理士としても、これで相続税の申告を済ませて安心し、そろそろ忘れかけてい
た3年後に税務調査があり、またまた新たなる問題が発生し一騒動あったが、これについては後日
記載したいと思っています。
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